退職後のもしもに備える 医療と介護のお金のやさしい準備
退職後の生活は、時間にゆとりができ、新しいことに挑戦できる素晴らしい機会です。一方で、収入が会社員時代とは変わり、将来のお金、特に病気や介護にかかる費用について、漠然とした不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、退職後の「もしも」に備えるため、医療費や介護費について、公的な制度をふまえながら、やさしい準備の考え方をご紹介します。
退職後の医療にかかるお金について
私たちは皆、健康保険制度に加入しています。会社を退職すると、それまで加入していた会社の健康保険から、国民健康保険などに切り替わるのが一般的です。この制度があることで、病気やケガで病院にかかったときの費用(医療費)の自己負担額は、原則として一部で済むようになっています。
- 自己負担の割合:
- 75歳未満の方:原則として医療費の3割負担
- 75歳以上の方:原則として医療費の1割負担(所得によっては3割負担)
このように、公的な医療保険制度が大きな支えとなります。しかし、医療費が高額になった場合はどうなるのでしょうか。
高額療養費制度とは
医療機関にかかる費用が高額になった場合、自己負担額には上限が設けられています。これを「高額療養費制度」といいます。ひと月(同じ月内)にかかった医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じて定められた上限額を超えた場合、超えた分の払い戻しを受けることができる制度です。
例えば、ひと月に医療費が100万円かかったとしても、この制度を使えば、所得に応じた上限額以上の支払いは不要になります。ただし、申請が必要な場合や、差額ベッド代、食事代など、制度の対象とならない費用もありますので注意が必要です。
制度の内容は少し複雑に感じられるかもしれませんが、「ひと月の医療費には上限がある」という安心感があることを知っておくだけでも、気持ちが楽になるのではないでしょうか。具体的な上限額や手続きについては、お住まいの市区町村の担当窓口や、加入している健康保険組合に相談することができます。
退職後の介護にかかるお金について
年を重ねると、介護が必要になる可能性も出てきます。介護にかかる費用も、事前に少し知っておくことで、備えやすくなります。
介護保険制度とは
40歳以上の方は、皆、介護保険制度に加入しています。65歳以上になり、市区町村の認定によって介護が必要と判断された場合、介護サービスを原則として費用の一部負担で利用できるようになります。
- 自己負担の割合:
- 原則として費用の1割負担(所得によっては2割または3割負担)
介護保険制度では、自宅で受けるサービス(訪問介護やデイサービスなど)や、介護施設に入居して受けるサービスなどが利用できます。利用できるサービスの種類や量は、介護の必要性に応じた「要介護度」によって決められます。
介護にかかる費用について
介護サービスの利用料の自己負担は、公的な介護保険である程度抑えられますが、その他にかかる費用もあります。
- 介護保険の対象とならない費用:
- 施設に入居した場合の食費や居住費
- 日常生活費(おむつ代、理美容代など)
- 介護保険の支給限度額を超えて利用したサービス費用
介護が必要になった場合の費用は、介護度や利用するサービス、期間などによって大きく異なります。「公益財団法人 生命保険文化センター」などの調査データを見ると、一時的な費用や毎月の費用にある程度の目安が示されています。これらの情報を参考にしながら、「自分ごと」として考える一歩を踏み出してみるのも良いかもしれません。
やさしい準備の考え方
医療費や介護費について知ると、やはり不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、大切なのは、複雑な制度を全て理解することよりも、「公的な制度でどのくらい支えてもらえるのか」「自分で備えるべき部分はどこか」という全体像を捉えることです。
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まずは公的な制度を知る: 医療保険や介護保険は、私たちの暮らしを支える大切な土台です。全てを暗記する必要はありませんが、高額療養費制度や介護保険のサービス利用の流れなど、「いざというときにどんな仕組みが使えるのか」を知っておくことが、安心につながります。分からないことは、ためらわずに市区町村の窓口や専門家に質問してみましょう。
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自分でできる備えを考える: 公的な制度でカバーされない部分や、将来の生活スタイルに合わせて、貯蓄や保険の見直しを検討するのも一つの方法です。
- 貯蓄: 目標額を決めて、計画的に貯める。急な出費にも対応できる安心感につながります。
- 保険: 医療保険や介護保険など、民間の保険を検討する方もいるかもしれません。すでに加入している保険の内容を確認し、今の自分に合っているかを見直してみましょう。ただし、保険は種類が多く複雑ですので、専門家(ファイナンシャルプランナーなど)に相談したり、保険会社の窓口で説明を聞いたりして、納得した上で判断することが大切です。
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日頃からの健康維持を心がける: 最も大切な「備え」の一つは、健康を維持することです。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、そして定期的な健康診断を受けることが、医療費や介護費を抑えることにもつながります。
まとめ
退職後の医療費や介護費について考えることは、少し気が重いテーマかもしれません。しかし、日本の公的な医療保険や介護保険制度は、私たちの暮らしを支える大きなセーフティネットです。「もしも」の時に使える制度があることを知り、不安を少し和らげてください。
その上で、制度でカバーされない部分について、少しずつ準備を始めることが大切です。全てを完璧に備える必要はありません。まずは情報収集から始めたり、信頼できる人に相談したりする、やさしい一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。そうすることで、漠然とした不安が整理され、安心して退職後の生活を送るための道筋が見えてくるはずです。